蜻蛉と蟷螂

トンボを中心に、季節の昆虫を撮ります。

春に飛ぶからサナエトンボ?

今回は春に羽化するサナエトンボの記事です。

似たような見た目の種類が多くて同定が難しいイメージのサナエトンボの仲間ですが、私は大好きなトンボです。

本当はコサナエ属全4種を紹介する記事にしようと思っていたのですが、今年は3種しか出会えませんでした。

 

 

サナエトンボとは?

日本には約200種のトンボが生息していて、世界的にもトンボの多様性が高い地域と言われています。

その秘密は、湿潤な気候と起伏の多い地形に育まれた多様な水環境にあります。幼虫時代はもちろん、成虫になったら今度は水辺の開放空間を利用しながら生活する大型捕食昆虫であるトンボにとって、水環境の多様性はそのまま種の多様性に繋がります。

トンボは、翅の形態などをもとに大きく2つのグループに分けることができます。

まず、4枚の翅がすべて同じ形をしている、均翅亜目と呼ばれるグループ。イトトンボやカワトンボなど、身体が細く、左右の複眼が大きく離れているなどの共通点があります。

英語圏ではDragonflyではなくDamselflyと呼ばれているのがこのグループです。

一方で、前の2枚の翅(前翅)と、後2枚(後翅)の形態が異なるトンボは、不均翅亜目に分類されています。オニヤンマやアキアカネなどの有名なトンボは皆このグループで、今回紹介するサナエトンボ科も含まれます。

不均翅亜目の中で、さらに分類をする際にポイントとなるのがトンボの顔つきです。

不均翅亜目のトンボは均翅亜目のトンボに比べ複眼が大きく発達しているのが特徴ですが、その左右の複眼がくっついているのかいないのかで大まかな分類を行うことができます。

そして、左右の複眼がくっついていないトンボの仲間のひとつとして、サナエトンボ科という分類があります。

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OM-D EM-1 MarkⅡ+M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mmF5.0-6.3 IS

左右の複眼がくっついているタイプのトンボ(ハラビロトンボ:トンボ科)

 

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OM-D EM-1 MarkⅡ+M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mmF5.0-6.3 IS

左右の複眼が離れているタイプのトンボ(ホンサナエ:サナエトンボ科)

 

春に飛ぶからサナエトンボ?

日本に生息しているサナエトンボ科のトンボは全部で27種で、河川などの流れのある場所に生息している種類が多いのが特徴です。

左右で離れた緑色の複眼と、黒地に黄色の模様がある種類がほとんどで、色鮮やかで多種多様なヤンマ科やトンボ科と比べるとやや地味ではあります。

しかし、大型の種類も多く、開けた水面を素早く飛び回る姿は非常にかっこよく、水辺の枝先や川岸の石などに止まって縄張りを見張る様子は堂々としていて存在感があります。

コオニヤンマやウチワヤンマなど、"ヤンマ"と名前につく種類でもサナエトンボ科に分類されていたりするので、少しややこしいですが、複眼のつき方を見ればすぐに見分けられます。

サナエトンボは、漢字で書くと早苗蜻蛉。早苗とは田んぼに植えられるくらいまで育った稲の苗のことを指すので、"田植えの時期のトンボ"という意味で名付けられたのだと考えられます。

田植えの時期は地方や稲の種類によって異なりますが、おおよそ4月の下旬から5月ごろでしょうか。

実際にこの時期に活動するサナエトンボは何種類かいて、いずれも田園地帯にあるため池やその周りの湿地、田んぼの脇を流れる小川などに生息しているので、稲作との結びつきも深いトンボです。

夏に羽化するサナエトンボもたくさんいるのですべてがそうとは言えませんが、イメージとしては春から初夏にかけてのイメージが強いのがサナエトンボです。

 

似すぎ?

さて、やっと今回の本題です。今回紹介したいのは、春一番のまさに早苗の季節に見られるサナエトンボ。そのうち、池や湿地などの止水域に生息している種類のトンボです。

コサナエ属(Trigomphus)に分類されているこれらのトンボは日本には全部で4種類が生息しているのですが、この4種が非常によく似ていて、間違い探しレベルの違いで区別されています。

間違い探しレベルとは言っても、外見で同定できるのは分類学的にはまだやさしい方です。いくつかのポイントを押さえて撮影しておけば、確実に種まで落とし込むことができるのはありがたいですね。

その4種というのが、

コサナエ

オグマサナエ

タベサナエ

フタスジサナエ

の4種なのですが、今年はタベサナエを撮影することができなかったので、今回は詳しい見分け方の解説というよりは、種の簡単な紹介とさせていただきます。

 

コサナエ

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OM-D EM-1 MarkⅡ+M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mmF5.0-6.3 IS

コサナエ Trigomphus melampus は4種の中でいちばん北に分布が広い種です。東北地方はもちろん、北海道にまで生息していますが、逆に四国や九州など暖かい地域には生息していません。

東日本に住んでいるならば、最も普通に見られるサナエトンボがコサナエだと思います。

その名の通りやや小型のサナエトンボで、平地のため池はもちろん、やや標高のある地域でも見られます。コサナエ属のトンボは、他のサナエトンボよりもやや警戒心が薄く、素手で捕獲したり、指に止まらせたりすることもできます。

オグマサナエ

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OM-D EM-1 MarkⅡ+M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mmF5.0-6.3 IS

オグマサナエ Trigomphus ogumai は、日本のコサナエ属では最も大きくなる種で、体格もよく、見慣れてくると雰囲気で他のコサナエ属と区別できるようになります。

西日本に広く分布していますが、生息地は局所的で、四国にはほとんど記録がありません。

生息地では水辺周辺だけではなく、水辺からやや離れた日当たりのいい小道などでもよく見かけます。

コサナエ属4種でいちばん好きなのがオグマサナエです。大きくてゴツくてかっこいい!デカいは正義!

フタスジサナエ

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OM-D EM-1 MarkⅡ+M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mmF5.0-6.3 IS

フタスジサナエ Trigomphus interruptus はその名の通り、胸部側面の黒条が2本あるのが特徴。2本あるのは4種のうちフタスジサナエだけなので、この部分さえ押さえておけば他3種と確実に見分けられます。

西日本に広く分布していて、瀬戸内海沿岸を中心に記録が集中しています。

生息環境はオグマサナエよりもやや開けた明るい池の岸際に多いイメージです。

オグマサナエと混生していることも多いが、オグマサナエよりやや出現時期が遅い傾向があるみたいです。

 

来年はタベサナエも撮影して、各部位を比較しながら、コサナエ属の同定に役立つような解説記事を書こうと思っているので、お楽しみに(?)