蜻蛉と蟷螂

トンボを中心に、季節の昆虫を撮ります。

ムカシヤンマ(2021年5月)

サナエトンボの観察に通っているいつもの川で、ムカシヤンマに出会いました。

名前は聞いたことがありましたが、実物を見るのは初めてです。

 

ムカシヤンマとは?

ムカシヤンマ Tanypteryx pryeri は原始的な特徴を持つ大型のトンボの仲間です。

和名にヤンマと付きますが、ヤンマ科ではなく、ムカシヤンマ科というグループに属しています。複眼は左右で分かれていて、顔立ちはサナエトンボに似ていますが、複眼は成熟しても緑色にならず、黒っぽい色をしています。

平均的なサイズはギンヤンマくらいですが、大きな個体はコオニヤンマと見間違えるほど大型になることもあります。

飛び方はゆったりとしていて、飛んでもすぐにどこかに止まります。

止まるときは日当たりのいい木の幹や地面などにべったりと張り付くように止まるのが特徴的です。

 

"生きた化石"ではない?

ムカシヤンマは和名にムカシが付くように、原始的な特徴を持つトンボですが、同じく"ムカシ"という和名をもつムカシトンボとはまったく異なるグループに属しています。

ムカシトンボがよく"生きた化石"と呼ばれるのに対し、ムカシヤンマはあまりそう呼ばれることはないようです。

"生きた化石"の定義は曖昧ですが、化石で見つかっている祖先と形態が瓜二つなのが選定のひとつのポイントのようです。

原始的な特徴を持つというだけでは、少し弱いのかも知れません。

そんなムカシヤンマの特異性はその幼虫期にあります。

トンボの幼虫(ヤゴ)の多くは河川や池湖、湿地などの水中で生活する種類がほとんどです。

しかし、ムカシヤンマのヤゴはなんと、地中で生活しています。

彼らは湧水が染み出すような湿った森林内の斜面に穴を掘り、その中で生活しています。

普段は穴の入り口付近にいて、穴の近くを通りかかった昆虫や土壌生物などを捕食し、夜間は巣穴の周辺を歩き回って餌を探すこともあるようです。

巣穴の奥には深い水溜りがあり、脱皮のときはその水溜りの中で脱皮を行うと言われています。

神出鬼没

多くのトンボのオスは成虫になって成熟すると、水辺に集まってそれぞれが縄張りを形成し、メスを待ちます。

しかしムカシヤンマのオスは成虫になっても縄張りを持たず、林内や林縁の日当たりのいい場所をフラフラ飛んでは木の幹や地面に止まる未熟期と似たような生活を続けるので、特定の場所に留まるということはあまりありません。

もちろん、ヤゴが生育できるような林内の湿った斜面を知っていれば、その周辺を探せばムカシヤンマの成虫に出会うことができます。

しかし一見そのような場所がなさそうな場所でも、突然ムカシヤンマが姿を現すことがあるのです。

私の場合もまさにそうで、いつもホンサナエを撮影している小河川の河畔林の林縁を歩いていたときに、突然どこからともなく飛んできて目の前に止まったのです。

かなり大型の個体で、最初は一瞬コオニヤンマかと思ったぐらいでした。

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OM-D EM-1 MarkⅡ+M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mmF5.0-6.3 IS

そのまま逃げられると困るので、とりあえず全身の様子がわかるように撮った写真。

胸部から腹部にかけて黄色の虎模様があり、とてもかっこいいですね。

この個体はまだ羽化してから日が浅い未熟個体で、成熟が進むと、黄色い斑紋が白っぽくなり、全体的に彩度が低い感じの雰囲気になります。

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OM-D EM-1 MarkⅡ+M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mmF5.0-6.3 IS

望遠レンズをつけていたので、さらに近づいて顔まわりをクローズアップしてみました。

一見真っ黒に見える複眼は、実はワインレッド。偽瞳孔も確認できます。

胸部前面が茶色一色なのも特徴ですね。サナエトンボの場合ここにL字やハの字の模様があります。

太くてがっしりした体型は迫力があってかっこいいですが、飛び方がやや頼りないというか、トンボっぽくないのが印象的でした。